ネフローゼ症候群とは
ネフローゼとは糸球体から大量のたんぱく (おもにアルブミン)が濾過されて尿中に排泄され(一日3g以上)、その結果血清たんぱくが減少し(たんぱく六g以下、アルブミン三g以下)、浮腫を生じる状態をネフローゼといいます。ネフローゼ状態を起こす病気をまとめてネフローゼ症候群といいます。
ネフローゼ症候群は糸球体それ自身の病気によって起こる一次性ネフロ−ゼと全身の病気によって糸球体の病変が起こり、大量のたんぱく尿が出る二次性ネフローゼに分けられます。
一次性ネフローゼには微小変化群、膜性腎炎、膜性増殖性腎炎、巣状糸球体硬化症などの病気があります。
二次性ネフローゼには多くの病気がありますが、代表的なものは、糖尿病性腎症、心不全、エリテマトーデスなどの疾患により生じるネフローゼです。
ネフローゼ症候群のなかには副腎皮質ステロイドなどの薬物が効いて完全に治るものもありますが、多くは種々の治療が無効で、ネフローゼの状態が長く続いて日常生活がいちじるしくさまたげられる、いわゆるQOLの低下を招くことが少なくありません。
このような治療抵抗性のネフロ−ゼを難治性ネフローゼといいます。
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ネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群では高度の浮腫が特徴ですが、最近治療の進歩によって大量のたんぱく尿が続いているにもかかわらず、浮腫が認められないネフローゼもふえてきました。
しかし、血清アルブミンの低下がいちじるしいと、まぶたや下肢のむくみのほかに、胸水・腹水・心嚢水を生じることがあります。
これらの例では、息切れ、呼吸困難、吐き気、嘔吐などの症状があります。大量のたんぱく尿があると、尿はせっけんのあぶくのように泡だちます。
たんぱく尿の程度がいちじるしいと、尿量が減り、体重が健康時よりも5kgも10kgも増加します。ネフローゼ症候群では、血清たんぱくの減少により全身の抵抗力や免疫力が低下しており、細菌やウイルス感染にかかりやすくなっています。
また、いったん感染症にかかりますと、治りにくく、時に敗血症にまでなります。ネフローゼ症候群では血液が固まりやすい状態になっているので、下肢の静脈などの血栓を生じます。
尿中にビタミン類が排泄されてビタミン欠乏症になることもあります。ネフローゼ症候群では、高コレステロール血症などの脂質代謝異常を生じているので、ネフローゼ状態が長く続くと、年齢にくらべて動脈硬化が進み、若いのに心筋梗塞や脳梗塞などを起こすこともあります。
一次性ネフローゼ
・微小変化群
リポイドネフローゼとか微小変化型ネフローゼとも呼ばれます。微小変化とは、腎臓の糸球体を光学顕微鏡で観察してもほとんど変化が認められないことからつけられた名前です。
小児のネフローゼ症候群の多くはこの病気です。元気だった小児が2.3日のうちに突然むくみを生じ、時には目をあけられなくなったり、陰嚢や陰唇も水分貯留のためにふくれあがります。
小児の高度のネフローゼでは、虫垂炎とまちがわれるような腹痛を起こしたり、尿量が極端に減少し、急性腎不全を起こすこともあります。
微小変化群には副腎皮質ステロイド療法が有効です。しかし、投与量を減らすと、しばしば再発します。このタイプのネフローゼ症候群は頻回再発型ネフローゼ、またはステロイド依存性ネフローゼと呼ばれます。
・膜性腎症
成人に多いネフローゼ症候群です。微小変化群と異なって、はじめはたんぱく尿の程度は軽く、尿検査をしないと気がつかないこともありますが、1.2年たつとたんぱく尿の程度が増して浮腫を生じます。
このネフローゼ症候群の特徴は、
@副腎皮質ステロイド薬が効きにくい例が多いが、20%前後の例は自然経過で治ってしまう
Aネフローゼは治りにくいが (難治性ネフローゼ)、慢性腎不全に進行していくことは少ない
B原因不明の例もあるが、悪性腫瘍(肺がんや胃がんなど)や感染痛(B型やC型肝炎など)に伴って発症する例もある、ことなどです。
・膜性増殖性腎炎
小児と若い人に多いネフローゼです。微小変化群よりはゆっくりしていますが、膜性胃痛よりは早くネフローゼが完成します。
この病気は、副腎皮質ステロイド薬が発病後早い時期には有効なことがあります。しかし、多くの例は数年後にネフローゼより慢性腎不全に進行し、やがて透析治療が必要となります。
・巣状糸球体硬化症
小児にも大人にも起こるネフローゼです。発症後ネフローゼが完成するまでかなりゆっくりしていますが、膜性増殖性腎炎と同様に副腎皮質ステロイド薬が効きにくく、数年後には透析治療が必要となる例が大部分です。
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ネフローゼ症候群の治療
全てのネフローゼ症候群に有効な治療法は、食事療法です。ネネフローゼ症候群では水分と同時に食塩(ナトリウム)の貯留もありますので、食塩摂取を浮腫の程度にあわせて一日3〜5gに制限します。
いっぽう、血液中のたんぱくが大量に尿中に失われるので、栄養失調状態になっています。したがって理論的にはたんぱく質を大量に供給することが必要に思われます。
数年前までは、ネフローゼ症候群には高たんぱく食というのが定石でした。 しかし、最近ネフローゼ症候群では、たんぱく摂取量は健康人と同じか、あるいは積極的に制限したほうがよいとの考えかたに変わってきました。
その理由は、たんぱく質をたくさんとってもそのすべてが肝臓でアルブミンに合成されるわけではなく、尿たんぱくとして排泄されてしまうからです。
今日では上質のだんぱく質を一日体重1s当たり1gか、それ以下摂取するのが原則です。ネフローゼ症候群で浮腫の高度のときには入院治療が原則です。
ネフローゼ症候群の薬物治療はすべてのネフローゼに共通のものと、病気の種類によって使用する特殊なものとがあります。
共通の薬物についてまず述べましょう。浮腫が強く、尿量の少ないときには利尿薬を用います。血清アルブミンの低下がいちじるしいときには、アルブミン製剤の点滴静注をおこないますが、高たんぱく食と同じことで、大部分は尿にそのまま出てしまうので、以前ほど積極的に使われることはなくなりました。
ネフローゼでは血栓をつくりやすいので、抗血小板薬(ジピリダモールなど)が投与されます。ビタミン類も尿中に失われているので、総合ビタミン薬の投与も必要です。
一部のネフローゼに有効な薬剤の代表は副腎皮質ステロイド薬です。微小変化群とエリテマトーデスによるネフローゼ症候群が適応となります。
通常は経口投与ですが、重症例にはまず静注で三日間大量が投与されてから経口投与にスイッチされます。この三日間の大量療法はパルス療法と呼ばれています。
副腎皮質ステロイド薬の経口投与は最初に大量を投与し、効果が出てきたらば、投与量を漸減し、維持量投与に移ります。
このネフローゼ症候群のステロイド治療は年余にわたっておこなわれます。副腎皮質ホルモン療法のみで無効の例には免疫抑制薬(の投与が並行しておこなわれることもあります。
副腎皮質ステロイド薬を長期に服用すると、胃や十二指腸の潰揚が起こる、糖尿病が発症する、おさまっていた結核が再発する、才ステオポローシスになりやすい、小児では成長障害が起こるなどの合併症が起こりやすいので、定期的なチェックを受けることが大切です。
ネフローゼ症候群の家庭での対処
ネフローゼでは細菌感染を起こしやすいので、皮膚を清潔に保つようにします。副腎皮質ステロイド薬を大量に服用していると、肥満、にきびなどの副作用が起こります。
このため、時に若い人は主治医にはだまって副腎皮質ステロイド薬の服用を中止してしまうことがあります。
医師は服用を続けていると判断してしまうので、治療方針を誤ってしまうことがあります。服用がどうしてもいやなときには、正直に医師にその旨を申告してください。
ネフローゼ症候群は多くの府県で厚生医療の適応となりますので、詳細はもよりの保健所に問い合わせてください。
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